今回のブログは、ロンドン在住、マーク・バクスター(Mark Baxter)さんよりお届けします。
バー・イタリア ― 60年間変わらない本物のコーヒーに出会う店
Bar Italia – 22 Frith Street, Soho, London, UK.
フリス・ストリート(またはフロス・ストリートとも呼ばれている)にある、今や伝説になってい
るコーヒー・ショップ、バー・イタリアを初めて訪れたのは、今から25年ほど前のことでした。
その当時私は老舗ジャズ・クラブ、ロニー・スコッツのメンバーでした。
ソニー・ロリンズ(アメリカのジャズ・サックス奏者)、サラ・ヴォーン(アメリカの黒人女性
ジャズ・ボーカリスト)、そしてこの伝説的なジャズ・クラブのオーナーでもあったロニー・ス
コッツ(英国のテナー・サクソフォン奏者)のような一流のジャズ・ミュージシャンが出演する、
早い時間から始まるステージを見る前に、私はよくバー・イタリアで腰かけて、カプチーノを楽し
んだものでした。
通りを横切れは、ジャズ・クラブはすぐそこです。
2013年ともなれば、バー・イタリアがあるソーホーにも時代の変化が訪れました。
今やソーホーは高級レストランやオシャレな店が並ぶ町に姿を変えています。
そして数え切れないほどのコーヒー・ショップやチェーン店が通りにできました。
しかし今でもバー・イタリアはたった一軒だけで営業しています。
私に言わせれば、バー・イタリアに比べると、大通りに店を構える有名ブランドのコーヒー・
ショップは、熱い液体を大きなポリスチレン製のカップで出しているようなものです。
そしてニッチで小規模な個人営業のコーヒー・ショップは、話題の店になろうと少しばかり無理を
し過ぎているように思えます。
バー・イタリアはオシャレでトレンディーな店を目指していません。
ただごく普通に、本物のコーヒーを提供しているだけなのです。
バー・イタリアの壁はサッカー・チーム、ギャング、有名人、新聞の切り抜き、かつて働いていた
スタッフや経営者家族の写真で覆われています。
店内のテレビはサッカーのイタリア・リーグの試合や世界のプロが競う自転車レースなどを放映し
ています。
店内の装飾はただ自然に出来上がったもので、有名インテリア・デザイナーの手によるものではあ
りません。
私たち常連客はコーヒー崇拝者ではありません。
ここでは本物のコーヒーが飲めることが大切なのです。
この店を1949年に開業したポレドリ家によって、今も店は守られています。
最初のオーナーの孫たちが店を経営しています。
今でも私にとって、ここで飲むコーヒーが英国で一番美味しいコーヒーです。
ここのコーヒーはコーヒー専門家による秘伝のブレンドで作られています。
そのブレンドの秘密は堅く守られていて、店のオーナーの家族であっても、
どんな豆が使われているかを知りません。
初めてバー・イタリアを訪れてから25年も経っていますが、今でも少なくとも一週間に2~3回
はここでコーヒーを飲むようにしています。ロンドンのウエスト・エンド地区にいる時には、
バー・イタリアを根拠地にしているので、ここは私のオフィスのようなものです。
毎日毎日ここに通っているたくさんの常連客の顔を見るたびに、ここが特別な場所だということに
気づかされます。
そういった常連客は会社員や救急救命士だったり、また有名な映画や音楽のスター、
窓清掃員だったりと、その職業は様々です。
どんな職業であっても、バリスタは彼らに対して全く同じように接します。
毎日のようにここで見かける有名人には、サー・ポール・スミス(ファッション・デザイナー)、
マーティン・フリーマン(「シャーロック」でワトソンを演じる俳優)、
ポール・ウェラー(ミュージシャン)、ボーイ・ジョージ(ミュージシャン)、
ジョン・ハート(俳優)、サー・ブラッドリー・ウィギンズ(自転車競技選手)、
ルパート・エバレット(俳優)、そしてサッグス(歌手)がいます。
彼らはまるで私と同じで、ここを自分のオフィスにしているかのようです。
マーティン・フリーマン(「シャーロック」でワトソンを演じる俳優)

ポール・ウェラー(ミュージシャン)
サー・ブラッドリー・ウィギンズ(自転車競技選手)
もしあなたが最近ロンドンを訪れたのに、バー・イタリアに来たことがなければ、残念ながらあな
たのホリデーは完璧だったとは言えないでしょう。
次回ロンドンに来たら、バー・イタリアのテラス席に腰かけて、カプチーノをオーダーして、
あなたの前を通り過ぎる人たちを眺めてみてください。
そしてそこで出会う人たちに、「マーク・バクスターの勧めでここに来ました」と言ってみてくだ
さいね。
バー・イタリアにて
ロンドン在住、マーク・バクスター(Mark Baxter)
2013年春