今回のブログは、ハーブ研究家、北野佐久子さんに執筆していただきました。
世界一有名なうさぎピーターラビットを生み出した作者、ビアトリクス・ポター。
そのビアトリクスに魅せられて湖水地方を訪ねるようになって20年余り、湖水地方ならではの素
敵な場所、おいしさにもたくさん出会いました。
ビアトリクスもかつてパーティーに招かれたというジョージア朝邸宅は、現在Storrs Hall (ストー
ルズ・ホール)というマナーハウスのような優雅な雰囲気のホテルになっています。
窓からはウィンダミア湖の眺めが美しい、湖畔に静かにたたずむこのホテルに昨年の8月宿泊した
ときには、その食事のおいしさを堪能しました。
まず朝食がおいしい!
メインとなる一皿に加えて、まるでジャムを保存するようなガラス瓶に入って出されたヨーグルト
は、あまりのおいしさに3泊した毎朝注文しました。
ルビーのように美しい、ラズベリーやブラックベリーなどの真っ赤なベリーのコンポートの味わい
が、ベリーがたわわに実るイギリスの夏の味わいそのものなのです。
トッピングのカリカリとしたオートミールのクランチも絶妙のコンビネーション。
ビアトリクスが住居兼アトリエとしたヒルトップのあるニア・ソーリー村はこのウィンダミア湖を
渡し舟のようなフェリーに乗って行くのが、私のお気に入りの行き方です。
そのニア・ソーリー村でランチを食べるのでしたら、ナショナル・トラストに保存されているパ
ブ、「タワーバンク・アームズ」でその建物の雰囲気と共に是非味わいたいもの。
「あひるのジマイマのおはなし」に描かれている、村で一軒しかないパブです。
湖水地方の地ビールを飲みながら味わう、ローストビーフとヨークシャー・プディングの一皿はロ
ンドンとは一味違う家庭料理のような素朴な味わいがうれしいもの。
ヨークシャー・プディングはローストビーフを焼いたときに出る牛脂の中に粉を溶いた生地を流し
いれ、こんがりふっくらとシュークリームの皮のように焼いたもので、プディングといってもお菓
子ではありません。これをグレービーに絡ませながら食べるのがおいしいのです。

また、湖水地方のあるカンブリア州が特産のソーセージ、カンバーランド・ソーセージも忘れては
なりません。
とぐろを巻いたようにこのソーセージは、あら挽きの豚肉のミンチにセージなどのハーブ、スパイ
スを腸の長さに詰めたもの。生なので、適当な長さに切ってこんがりと焼いたものがランチの一皿
になったり、朝食の卵料理と一緒に出されますが、歯ごたえのある、スパイシーな味わいは、まる
で肉を食べているかのようなジューシーなおいしさです。同じ名前でロンドンのスーパーで売られ
ているものとは全く違う味わいなのです。
甘いプディングでは、湖水地方のカートメルという町で生まれた、スティッキー・トフィー・プ
ディングが有名です。それを味わうなら、ニア・ソーリー村の隣、ホークスヘッドにあるティー
ルーム、Grandy Nook(グランディー・ヌック)がお勧め。
秘密にしておきたい、この愛らしいティールームで出すここのスティッキー・トッフィープディン
グは絶品です。
デーツの入ったスポンジに、生クリーム、黒砂糖、バターを合わせた温かいソースがかかっていま
すが、しつこくなく病み付きになるおいしさ。たっぷりのアイスクリームをからめながらいただく
味は最高です。
ピーターラビットの世界とおいしい味、湖水地方には何度行ってもまた行きたくなる尽きせぬ魅力
があります。
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北野佐久子先生の新刊『ビアトリクス・ポターを訪ねるイギリス湖水地方の旅』のご紹介です。
『ビアトリクス・ポターを訪ねるイギリス湖水地方の旅:ピーターラビットの故郷をめぐって』
北野佐久子 著 A5判・218ページ・カラー刷・本体価格2,300円(税込み2,415円)
ISBN978-4-469-24576-9
『ピーターラビットのおはなし』の作者ビアトリクス・ポターが,愛し,暮らし,描いた湖水地方
を巡る本ができました!
彼女の絵本作家としてのみならず,自然保護活動家,キノコ学者,牧場経営者といったさまざまな
素顔を紹介しています。
300点以上の写真やビアトリクスが描いた挿絵・スケッチなどを眺めながら旅の気分を味わうもよ
し,また実際に湖水地方を旅する時のツアーガイドとしても携えたい1冊です。
各章末のコラムでは,食文化研究家の北野佐久子さんならではの,湖水地方特有のお菓子のレシピ
も紹介しています。