こんにちは、ブリグリンです。今日もブログへのアクセスありがとうございます! 公開に際して、長らく絶版になっていた原作も創元SF文庫より復刊! © RPC HIGH-RISE LIMITED / THE BRITISH FILM INSTITUTE/ CHANNEL FOUR TELEVISION CORPORATION 2015
さて、今日はいよいよ明日公開、映画『ハイ・ライズ』の魅力に迫る最終回です。最終回は本映画ご宣伝担当のQ様よりご紹介♪これを読めば映画がさらに面白くなること間違いなしです!
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最後のコラムは、宣伝担当Q(橋の下在住)が担当させて頂きます。
今回のテーマはSFの枠組みにとらわれず、世界的な作家として評価される「ハイ-ライズ」の原作者、ジェームズ・グレアム(J・G)・バラードについてです。
『ハイ・ライズ』のプロデューサーであり、過去にデヴィッド・クローネンバーグ監督とJ・G・バラード原作の『クラッシュ』(96)を手掛けたジェレミー・トーマスは彼についてこう語っています。
ジェレミー・トーマスは『戦場のメリークリスマス』『ラストエンペラー』なども手掛けた名プロデューサーです。
「バラードはいつもツイードのジャケットにネクタイをしていて、物静かでとても謙虚な人でした。彼の作品は短編でも長編でも、思いもよらない発想で私を驚かせます。寝る前に読むべきタイプの作家ではないかもしれませんが、私にとっては “人生の先生”のような作家です」
J・G・バラードは1930年、上海生まれ。父親は大規模な織物工場を経営していました。日中戦争の真っただ中で幼少期を過ごした彼は、裕福だった家の中では男女がダンスをしていて、外では銃撃に倒れる人々や破壊された町並みを目にするという特異な環境下で成長します。これらの体験を綴った自伝的な小説「太陽の帝国」は、1987年にスティーヴン・スピルバーグ監督により映画化されました(主演は少年時代のクリスチャン・ベールが演じています)。
1942年、家族とともに日本軍の捕虜収容所に収容され、ようやく1946年に英国に帰国したバラードはケンブリッジ大学で医学の分野で学んだ後、作家になる決心をします。それから10年後、短編「プリマ・ベラドンナ」でデビュー。
当時のSF小説は、銀河を舞台にヒーローが悪者をやっつけるような勧善懲悪の物語が主流でした。バラードは「人間が探求しなければならないのは、外宇宙(アウター・スペース)ではなく、内的宇宙(インナー・スペース)だ」と唱えて、英国ニュー・ウェーブの旗手として注目されます。
60年代に発表した“破滅三部作”と呼ばれる「沈んだ世界」「燃える世界」「結晶世界」では、奇妙にロマンティックな世界の終焉を描き出し、作家としての地位を確立。
70年代には「クラッシュ」「コンクリート・アイランド」「ハイ-ライズ」を発表。これらは“テクノロジー三部作”と呼称されています。いずれもテクノロジーの進化によって、人間性が破壊されていく、もしくは退化していく様が描かれていますが、それらは“破滅三部作”同様に、どこか甘美な苦痛を伴っていて倒錯的な魅力を放っています。 バラードの長編に共通しているのは、主人公がヒーローではなく、普通の人間たちだということです。彼らは破滅が目前に迫ってきているにも関わらず、どこか無関心で積極性がなく、流されるようにすべてを受け入れます。彼らの態度は、不可解で奇異に映りますが、これは戦場下で少年時代のバラードが目撃した視点に重なりますし、滑稽なまでの無関心は現代人を象徴しているようにも感じられます。
かつてジェレミー・トーマスは70年代に『地球に落ちて来た男』(77)のニコラス・ローグ監督と、さらに20年後、『CUBE』のヴィンチェンゾ・ナタリ監督で「ハイ-ライズ」の映画化を試みましたが、残念ながら実現することができませんでした。しかし、同じく「ハイ-ライズ」映画化を目指していた新進気鋭のベン・ウィートリー監督と出会ったことで、再びプロジェクトが始動します。今回は上手く物事が進みました。ジェレミーと監督が「主人公のロバート・ラングは彼しかいない!」と切望していたトム・ヒドルストンが原作「ハイ-ライズ」のファンであり、ラング役を演じる事を快諾したのです。そうして、ジェレミー・アイアンズ、ルーク・エヴァンズ、シエナ・ミラー…と素晴らしいキャスト達が作品の元に集結しました。こうして奇跡的に「ハイ-ライズ」の映画化が実現したのです!
J•G•バラードが描く主人公像を完璧に演じたトム・ヒドルストン!
ジェレミーは言います。
「『ハイ・ライズ』は外から自分たちを守ろうとする閉じられたコミュニティの話です。コミュニティの中に入った人は、外の世界から自分たちを隔離していき、おかしな行動をとるようになっていきます。映画を作り始めたときには考えなかったのですが、この映画は思った以上に今の英国を比喩していると感じています。EU脱退の前にこの映画を作ったわけですが、英国が抱える問題がまさに『ハイ・ライズ』の中で起こっています。原作は70年代に書かれたのに、まるでバラードの予言ですね。本作はエンターテイメント作品ですが、非常にセンセーショナルです。日本にも沢山の高層ビルがありますから皆さんも身近な物語だと思いますよ。ぜひ楽しんで下さいね!」
『ハイ・ライズ』は8月6日(土)より全国順次公開となります。
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【連載】2016年を予言していた?!J・G・バラードのSF小説「ハイ-ライズ」
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